担当医「いまいまという可能性も」
父が入所している介護老人保健施設からスマホに連絡がありました。
いつもお世話になっているNさんから。
「お父さんですが、昨日から食事量の方が減ってきているんです。今日の朝と昼、食事を取りたい、起きたいと言うので、車椅子で起きたりもしたんですが、今しがた少し反応が鈍くなって、ベッドにご案内させていただいて、血圧を測ったりしているところです」
「受け答えはできるんですが、元気がなくって、顔色も悪くて、血圧もいままでよりも低い状態なんです。先生の方から息子さんの方に別途お話しさせていただきたいとのことで…」
施設からの電話だったので、良い知らせではないだろうとは予想はつきました。
I医師につながるまでの〝お待たせメロディー〟が流れている時間が長く感じられます。
ほどなくしてI医師が電話口に。
「本人、かなり状態悪くなってしまって。もしかしたら、いまいまという可能性もあるんですよ。こちらに来たとき、血圧が低くて利尿剤を減らしたんですが、むくみがひどいので元に戻したんですが、やっぱりむくみがだんだんひどくなっていることと、昨日から食事がほとんど取れない状態になっています。だんだん意識のレベルも悪くなって、食事以外はもうほとんど寝ている状態で、呼び掛けても『う~ん』みたいな感じで。トイレに行くのに3人がかりで連れて行っていたんですが、もう全然歩けないし、本人は動きたくない、と。お風呂も1回入ったきりで動きたくない、お風呂もいやだ、このまま寝ていたい。うちにも帰らないでいいからこのまま寝かせてくれ、と」
(担当医が「いまいまという可能性も」と診て、家に一時帰宅することを楽しみにしていた父が「帰らないでいいから」と言うからには、よほど体調が悪いのでしょう…)
「1つ心配だったのは、おうちに帰った場合、もしかしたらおうちで亡くなってしまう可能性があるし、寝たっきりでご飯も食べられない、おむつを交換するぐらいとなると、ちょっとたいへんかなと。元々の目的が一度帰って本人の気持ちに整理をつけさせてやりたいとのことでしたが、そういう状態ではなくなってしまっているんですよね。目も開けないから、身辺整理もできないし」
(家で亡くなってしまう可能性があって目も開けないようでは、確かに気持ちの整理、身辺の整理のレベルではありません…)
「きょう血圧が90ぐらいになってしまって、ご飯も食べられず、むくみもひどいので点滴もできない状態なんですよね。ちょっとおうちに連れて帰るのは…。地域包括支援センターさんに入ってもらって、おうちで息を引き取る、死期を迎えるというのも可能性としてはできないことはないですけど。一度帰ったらもう帰って来られないのでは、と。今動かすこともたいへんなぐらいの状態ですので」
(自宅で看取りとなると、父の介護疲れで精神的にまいっていた兄に負担が再びのしかかってしまうし、何より負担が重すぎます…)
「こちらは病院とは違って人工呼吸したりとか点滴したりとか延命治療は行いませんので。このままの状態で、本人も何もしたくないということなのでそっとしておいて、様子を最期まで看させていただくという看取りをさせていただくか、もし希望があれば、おうちに連れて帰ってもらって、そのままおうちで、もしかしたらお亡くなりになるという形になるか…。昨日よりさらに今日は具合が悪くなっているので、ご家族の方と相談したかったものですから」
ターミナル入所に切り替え
父の「延命治療はしなくてよい」との意思は、これまで何度か兄同席の下で確認しています。
後は、いまショートステイで入所してお世話になっている施設での看取りか、自宅での看取りかという、われわれ家族の選択判断です。
私「元々、明後日自宅へ連れて戻る予定だったのですが、先生のお話をうかがうと…」
I医師「もしかしたら、急変して今日、明日という可能性もあるかもしれないということですね」
私「本人は動きたくないと言っている…」
I医師「動きたくない、このままここで寝かせていてくれ。家にもう帰えりたくない、と。意識がもうろうとしているので、その時その時で言うことが変わってくるかもしれませんけど、職員にはそう漏らしたみたいです。もう自分の力では動けないですね。後はご家族の判断になるかなと」
(医師の話を聞くに連れて、自宅での看取りは難しいとの思いが一層強くなってきました…)
私「叔父と会わせてやりたいと思っているのですが、面会することは可能ですか?」
I医師「こちらでターミナル(ケア)ということであれば、制限はありますが、ご家族の方は毎日面会できますので。お部屋に来ていただいての面会は可能です」
ターミナルケアとは、老衰や疾病が進行する中、医療による治療効果が見込めなくなり、余命数カ月以内と判断された終末期に、延命を目的とせずに身体・精神的苦痛を和らげ、生活の質の維持・向上を図る処置のことのようです。
私「そちらでお世話になった方がよろしいでしょうか?」
I医師「状態としては…そうですね。動けないですし、車椅子にも乗っていられない。今日は車椅子に乗ったみたいですが、食事が進まなくて、1割食べたかどうかで、もう(ベッドの方へ)戻してほしいと言われたので。寝た状態でお部屋の方で面会という形になりますね。(自宅へ)帰らない、こちらでターミナルという入所の形であれば、午前も午後も大丈夫です。基本的には1日1回くらい。毎日来ていただいても大丈夫です」
私「本人の体の状況も悪いですし、やはりプロの方に看ていただいた方が…」
I医師「そうですね。おうちに帰るよりも、ここで静かにしていた方が…。おうちに帰るメリットというのが…。弟さんと面会させたいというのであれば、こちらでもできますし。おうちで家族に何ができるかというと、人手がないので…。それで確認したいのは、(予定している)5日の一時退所前にもし急変してしまった場合は、ご了解をお願いします。病院に救急搬送はできないので。おうちに帰るかどうかは5日までに決めていただければいいですが、血圧が下がって、すーっとお亡くなってしまうケースがあるんです。全身の状態が悪いと。万が一、そうなった場合はパレスの方で看取りということでよろしいでしょうか?」
(体調がすぐれない父を一時退所させて再び入所させた場合、体力は一層消耗するし、ほとんど寝たきりならば、自宅のベッドで家族が体位交換など適切な対応ができるかどうか…。本人に満足してもらえる環境を自宅で提供できる自信がありません。それどころか、かかりつけ医は自宅で亡くなる可能性も指摘しています。父の介護疲れから兄は精神的に追い詰められているし、自宅での看取りは現実的ではありません。やはり施設でのターミナル対応をお願いした方が、本人のためにも家族のためにも望ましい…)
そう判断して、私は「そうですね。お願いしたいと思います」と応えていました。
兄と相談する前に、父のターミナル入所を決めてしまう形となりました。
兄と受け答え
I医師「本当は書類を交わすんですが、電話で看取りを希望されたということなので、本人の血圧も下がっているので、きょうから希望されれば、1日1回3人まで面会を許可しますので」
私「はい。それと、さらにもう一段悪化した場合は兄か私までご連絡いただけますでしょうか」
I医師「その都度、その都度、症状が変わった場合に適宜連絡を入れたいのですが?どちらに?」
連絡を受けたときに物理的に対応できるかどうかということを考えると、はやり先ず地元に居る兄に、その次に私に連絡してもらうようにお願いし、医師との電話を切りました。
その直後、兄のスマホに電話をかけ、直前の医師とのやり取りをそのまま伝えると、父の施設でのターミナルケアに賛成してくれたのでした。
今日から面会することも可能と聞き、施設から聞き出した面会ルールも兄に伝えました。
1日1回、15分、3人まで。マスク着用。
時間帯は先方の受け入れ態勢もあることからできれば10時~17時にしてほしいとのことですが、24時間対応は可能。
小学生以下、発熱、咳き込み等体調不良者はNG。
面会の際は、事前に訪問時間を施設事務所に連絡。
夜になって兄から折り返し連絡があり、この日さっそく面会に行ってくれたとのこと。
兄「親父と会えた。元気そうというわけにはいかないが、血圧も110ぐらいまで上がって、やり取りができた。5日に叔父さんらが会いに来るということを伝えて、何か必要なものはあるかと聞いたら『特にない。その時に話す』と言っていた。受け答えはできる」
私「よかった、よかった」
兄「ただ、ちょっとおかしいところもあって、(亡妻の)Mはどうしてると尋ねてきて、Mはもう亡くなったでしょと言ったら、あぁそうかとか言っていたから、正常という感じでもなく…。部屋は施設職員が常時詰めている事務局から一番近い部屋に変わっていた」
話している内容の一部が現実離れしていても、父が取りあえず、受け答えができるレベルの意識を有していると聞いて、安心しました。父の部屋もこれまでのところからから事務局から最も近い場所へと移り、看取りの態勢も強化してもらっているようです。
私は兄に「ありがとう」とお礼を言うとともに、予定通り4日に叔父と共に父のもとを面会に訪れることを伝えたのでした。